『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒

集英社インターナショナル(2021)

淡路島の小さな書店を訪れた際、店主の方から「とにかく騙されたと思って読んでほしい。いろんなことを考えさせられる作品だから」と勧められたのが本書だった。同じく本を扱うプロがそこまで言うなら……と買い求め、「目の見えない白鳥さんはいったいどうやって見る(・・)んだろう?」との好奇心で読み始めた。すると、この本は見える・見えないという一義的な意味を超えて、人と人が対話する大切さ、もっといえば人間が人間を理解することの本質を考えさせられる本だとわかってきた。

「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」

著者の川内有緒さんは、そんな友人からのひと言で全盲の白鳥建二さんと美術館を巡ることになる。川内さんは、目の見えない人が美術作品を「見る」ってどういうことなんだろう? 何か超能力があるのかしら? と思っていたが、現代美術を前に白鳥さんと時間を共にする中で、「見えないひとと見えるひとが一緒になって作品を見ることのゴールは、作品イメージをシンクロナイズさせる(お互いの像を確かめ合う)ことではない」と徐々に気づいていく。

では、白鳥さんの見えない目を通して何が見えてきたのか――。ひとつお伝えしたいのは、大切な人の言葉に耳を傾け合い、同じ時間を共有する「今この瞬間」は本物だということ。私たちは自分以外の誰かになることはできないし、その人が考えていることはその人にしかわからない。まして障がいをもつ人の気持ちを真に理解することも不可能だ。わかるのは自分のことだけ、いや、もしかすると自分のことすらもわからないというのがこの世の真理かもしれない。

それでもなお、人が人を思い、人が人を愛するとはどういうことだろう。その答えが本書に書いてあるわけではないけれど、少なくとも私にとって、人と人が楽しく時間を過ごすことの意味、近くにいる大切な人と「今を生きる」意味を深く考えさせられた。

高橋武男