『老人ホームで死ぬほどモテたい』上坂あゆ美

書肆侃侃房(2022)

このタイトルを目にした人は、どのような本を思い描くだろう。小説かエッセイか、介護に直面した著者が描くノンフィクションか――。いろいろな想像がふくらむが、この本は静岡県出身の1991年生まれの女性が詠んだ第一歌集である。

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冒頭のこの一首は、いきなり顔にナイフを突きつけられたような鮮烈なイメージを読者に与える。著者は美術大学を卒業後、あらゆる創作活動に挑むが納得できず短歌に出会う。「短歌は31文字でお金もかからない。スマホがあれば重たいキャンバスもいらない。短歌のシャープさコスパの良さが気に入った。」

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タトゥー(刺青)を持つ母や姉、フィリピンの女性と比国に行ってしまった父など、垣間見える複雑な家族関係。両親の離婚について詠んだ「Xの値を求めていた頃」、生きることについて詠んだ「たのしい地球最後の日」、身の回りの生活についての短歌「国民年金」などの歌が並ぶ。

『老人ホームで死ぬほどモテたい』というタイトルについて著者は、「地元や家族、学校に違和感を感じている、昔の私のような皆さんに読んで欲しい。過去を呪って生きるのではなく、未来への眼差しを示したかった」と。

過去のわだかまりを手放し、未来を掴むため31文字に詰め込まれた短歌の世界。読書が苦手な人にも手に取りやすいタイトルであるが、ページを開けば一瞬にして心を刺され、本を閉じたあともしばらく、その痛みは消えない。短歌に馴染みのない人にこそ、手に取ってもらいたい一冊である。