『流しのしたの骨』江國香織

新潮文庫(1999)

いまから15年ほど前、うんと年下の女友達にして私の編集担当ちゃんと南の島に旅したことがある。当時の私たちは勤勉で、本当に真摯に仕事をしていたので、すっかり疲れて、南の島にいる間はホテルから一歩も出ずに、ひたすら本を読んでいた。旅立つ前に二人で同じ本を読もうと、4冊をセレクトしてきたのだ。そのなかの1冊が本書『流しのしたの骨』。年下の女友達の推薦書だ。 

初期の江國さんの本は読みやすいし、江國さんの言葉を借りれば〝心が平らか〟になることが多いので、見事最初の1冊に選ばれて、私たちはベッドに寝そべって、江國ワールドに浸った。コテージ風のお部屋はオープンで、真ん中に小さなプールがついていて、たくさんのお茶とお酒とフルーツと焼き立てのパンがあって、始終、気持ちのいい風が吹いていた。南の島で読む江國香織は、本当に良かった。心も、体も、魂も、ゆるゆるにしてくれた。

本書のテーマは家族。主役は3人姉妹とその弟と両親6人の宮坂さんチのお話だ。宮坂さんチには、自由で囚われない空気が流れている。6人の個性はそれぞれに違うのに、根っこの部分がみんな同じというところが家族だ。ご飯と記念日をとても大切にしていて、美味しそうなご飯がたくさん登場する。

朝ご飯は家族によって少し差が出るが、セイロン紅茶と半熟卵と茹で野菜とバナナがベース。誕生日など主役の日には、好物を作ってもらえる。クリスマスの日には、4人の子どもで山ほどのシウマイを作った。ご飯のシーンを読むだけでも、この物語を読む価値がある。宮坂さんチに生まれたら、ずっとここに止まりたくなってしまいそう。それが幸せなのか、どうかは分からないけれど。本当にはそんな家族にはなかなかなれないから、小説の中だけでも、それを体感できるのは、幸せだナ。

そして、気になるタイトル『流しのしたの骨』については、物語の後半で種明かしが。それについては、読んでからのお楽しみだ。

sachikoi