『かざる日本』橋本麻里

岩波書店 (2021)

著者は、日本美術を主な領域とする美術ライター・エディターとして活躍するかたわら、公益財団法人永青文庫の副館長も務めている。

引き算で余計なものを削ぎ落とし、余白で魅了する。果たしてそれだけが「日本的な美」なのだろうか。盛って足して装う「かざり」の美もあるのではないかー。双方が両輪となって日本の美術史に分厚い層を形成してきたと著者は語る。

組紐、鼈甲(べっこう)、帯、料紙装飾、刀剣、螺鈿(らでん)などの「かざり」がどのように成り立ち、変遷し文化を形づくってきたのか。さらに「今」という時代の中で、新たな挑戦を試みている点などにも注目してほしい。ページをめくるたびに、豊かで奥深い「かざり」が息づいていることに気づかされる。また目に見えるものだけではない。匂い、音、味、手触り、場の空気、温度――私たちは感覚を総動員し、五感すべてに働きかける「かざり」を受容している。

たとえば「結髪」の章では「ベースとなる髪を常日頃から手入れし、髪の自然に逆らう、限りなく人口的な形状に美と威信とを見出し、長く保つことができないひとときの装いに惜しみなく技芸を投じる。その贅沢なありようは、まさに「かざり」の真骨頂だ」と伝える著者の考察は斬新である。更には本文の字体にも工夫を凝らしており、版面にみっしりした凝縮感が出るよう、漢字や字画も多めのものが意識的に使われているそうだ。著者の語彙力の豊富さ、的確さには舌を巻く。真摯に学んできた人の確かな蓄積が感じられる。