『モモ』ミヒャエル・エンデ

岩波書店 (2005)

児童文学で知られる本書。しかしその内容は、現代社会に生きる大人たちに向けられたものといってよいだろう。平易な言葉とストーリー展開で、幸せに生きるための時間の使い方とは何かを問いかけてくる。

『モモ』が生み出されたのは今から50年近く前。技術が進歩した今、「時間が足りない」「もっと時短を」「効率よく」と、人間は見えない“時間”という存在にますます追い立てられている。

子供のころに読んだときには、主人公の少女「モモ」と同じ目線で、忙しくてイライラしている大人たちを批判的な目で読んでいたように思う。時を経て、忙しい毎日を送る今、改めて物語に触れると、「はっ」とさせられる表現がいくつもある。道路掃除夫ベッポがモモに仕事を楽しく、疲れず、早く終わらせるコツについて語りかけるシーンは、日々仕事に追い立てられている人の心の支えとなってくれるだろう。

さらに年齢を重ねて忙しい盛りを過ぎた時、本書はどんな気づきを与えてくれるのか……。読んだ時の年齢によって毎回新しい学びと気付きを与えてくれる、繰り返し読んでいきたい一生モノの名作。

小鳥遊多実子