『クレーの食卓』新藤信,林綾野

講談社 (2009)

スイスの画家であり美術理論家でもあったパウル・クレー。クレーが家族に宛てた手紙はユーモアがあり、チュニジアでのフルコースとの格闘を綴った日記など、笑いを誘う。二度の大戦の渦中にあり不安定な情勢の中、経済的に決して豊かではないと思われる日々でありながらも前向きな言葉を選ぶところに人柄が垣間見える。

本書は、右から読むとクレーの絵や写真で人生を辿り、左から読むと彼が作った料理とレシピを楽しむことができ、豚のヒレ肉や大麦のスープ、タラの水煮など、肩肘張らずに作りたくなるようなメニューが並ぶ。本書で得た知識を念頭に置きつつ、「この絵を描いていた時期にクレーはどんなものを食べていたのか」と想像しながら作品を眺めるのも楽しい。“日々の食事”という、人間の根本的な部分を中心に据えた解説書。読む前と後とでは、作品やクレー自身に対する印象が随分と変わるのではないだろうか。