『プリズン・ブック・クラブ–コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』アン ウォームズリー
特に目的のないままなんとなく書店の書棚を眺めていたところ「刑務所」と「読書会」というあまりにも意外な言葉の組み合わせのタイトルが目に留まり、思わず手に取った。本書は、カナダにある刑務所で実際に行われていた読書会の1年間を追ったドキュメンタリー作品である。強盗、薬物売買、暴力など、事件を起こした囚人たちが共通の課題図書を読み、議論し合う。
著者は、暴漢に襲われた過去を持つ雑誌記者の女性。刑務所での読書会を主宰する友人から、ボランティアの話を持ち掛けられた時には参加をためらっていた。葛藤の末、恐怖心よりも好奇心が勝るようになると、参加を決意する。
刑務所の読書会だからといって、扱う課題図書は彼らを正しい道に導こうとするような品行方正な作品ばかりではない。古典作品からノンフィクションまで、選び抜いた多種多様なものを扱っている。邦訳されていない作品もあるが、『怒りの葡萄』『またの名をグレイス』『賢者の贈り物』など、日本でも知られた作品も多々ある。
この本には、いくつもの楽しみ方があるように思う。刑務所とは縁のない人生を歩んできた著者の目線で、刑務所内に立ち入り、「囚人」と呼ばれるいかつい男たちと対峙したときの緊張感、少しずつお互いに信頼関係が築かれていく様子など、刑務所という世界で生きる人たちの人生を垣間見るということ。巻末のブックリストを見ながら、読書会で扱った本を読んで疑似読書会を開催してみてもいい。そして時折描かれるカナダの雄大な自然に癒しをもらうこともできる。
400ページにも及ぶ大作だが、次はどんな展開が待っているのか気になり、気負うことなく読み進めることができる。囚人たちのプライバシーに配慮した表現や細部まで緻密に取材された内容は、著者がこの本や関わる人たちにかける愛情の深さであるように思える。
一読者の私たちにとっては、普段は読まない作品を知るきっかけとなったり、本の読み方を見つめなおすきっかけになったりと、読書の幅を広げてくれる作品といえる。
小鳥遊多実子