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『放浪記』林芙美子
新潮社(1979)
本書は、著者・林芙美子が大正11年から5年間にわたって日記風に書き留めた雑記帳です。尾道高女を卒業後、愛人を追って上京したものの、翌年には婚約を破棄され、日記をつけることで傷心を慰めていたようで、それがこの『放浪記』の原形になったそうです。
貧乏な生活が壮絶で、住居や仕事を転々と変えてよりよい暮らしを求めても貧しさは変わらず。しかし失望の中でも、本を読み、ときには詩を書いて出版の機会を探る前向きな姿勢は、悲壮感を覆すほどの生命力の強さが伝わってきます。
「書く。ただそれだけ。捨身で書くのだ。西洋の詩人きどりではいかものなり。きどりはおあずけ。食べたいときは食べたいと書き、惚れているときは、惚れましたと書く。それでよいではございませんか。」――まことにおっしゃる通りだと思います。