『音楽』三島由紀夫

新潮社(2021)

三島由紀夫の世界観を語れるほどには至っていませんが、昨年からその作品にのめり込み始め、これで4冊目の読了。三島由紀夫とはいったいどんな人物だったのか――精神分析さえ文学に昇華してしまうその凄みに、今回もすっかり引き込まれてしまいました。

今回読んだ『音楽』は、精神分析医の視点から描かれる心理小説です。主人公の心理療法士と彼の患者である美しい女性・麗子との関係を軸に物語が展開します。
麗子は、自身が性的に満たされない状態を「音楽が聴こえない」と表現し、この「音楽」という言葉が作品全体を通して性的な比喩として象徴的に用いられています。また、麗子の奇妙な行動により医師自身の内面も揺さぶられ、治療者と被治療者の心理が交錯する様子が描かれています。この緊張感あふれる関係性が非常におもろしい。

人間の深い欲望や性的なテーマを扱いながらも、あくまで文学としての品位を保ち、独自の美学を貫く――三島由紀夫とは本当に何者なのだろうか……。