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『わたしの知る花』町田そのこ

中央公論新社(2024)
さまざまな事情を抱えた人々の人生が交錯し、それぞれの「花」が咲く瞬間を丁寧に描いた物語。町田さんらしい、人の痛みや希望をすくい上げる温かみのある筆致が心に染み入ります。
本書には複数の短編が収められており、それぞれが独立しながらも、どこかでつながり合う構成が絶妙でした(これは私の好みのスタイル)。
特に印象に残ったのは、主人公の平を愛した女性の一人、香恵の存在でした。彼女の犯した罪のせいで平の人生は翻弄されてしまいますが、それでも何十年もの間、変わらぬ想いを抱き続けています。
「豊かな時間を過ごしたなら、幸福を共有したのなら、それだけで奇跡なの。その時間に縋れば、もっともっとと望めば、その瞬間の輝きすらもくすんでしまう。だから、その時間を芯として生きるの。そうするとね、強くなれる」皺だらけの両手を合わせ、香恵は祈るように語ります。そして「芯はね、自分が自分の力で集めて作るもの。思い出や、自信。私は大事なひとそのものを芯にしようとして、自分だけでなく大事なひとすらも傷つけて、失った」と…。彼女がどれほどの時を経て、どれほどの思いを抱えてきたのかが滲み出ていました。
町田さんは、日常の中にあるささやかな光を見つけるのが本当に上手で、何気ない会話や情景描写の中に人生の真理がふっと顔を出す瞬間があります。人生に迷ったとき、そっと背中を押してくれるような温もりを持った作品です。