『音のない理髪店』一色さゆり

講談社(2024)

『音のない理髪店』を読んで心に残った主人公のろう者である祖父の言葉。

相手を打ち負かすことだけが戦いじゃない。自分のすべき仕事を淡々とつづけることもまた立派な戦いだ——かつて、障がい者の方が店を持つなんて夢のまた夢だった時代。差別や偏見の中で黙々と仕事を続けた祖父の姿に、静かな闘いを見た気がした。

その想いが、娘が旅先で偶然に出会ったホイアンのカフェ “ReachingOut Tea House” に重なっていく。そこでは、言葉の代わりに手話やカードで想いが伝えられ、空間に“静けさ”が満ちていたたそうだ。

耳の聞こえないスタッフたちが、丁寧に、静かに、しかし誇り高く仕事をしていた姿に心が打たれた娘は「ベトナム旅行のハイライトは、あのカフェだった」と迷いなく言っていた。

静けさの中でこそ伝わるものがある。

声がなくても、人はちゃんとつながれる。

そして、自分の仕事を信じて続けていくこと——

それは誰にとっても、静かで力強い“闘い”なのではないだろうか。