『常設展示室』原田マハ

新潮文庫 (2021)

著者はアート小説を得意とする作家で、その多くの作品が映画化、ドラマ化されている。今回の小説は、常設展示室の話だ。地下鉄の駅に大々的にポスターが貼られているような企画展ではなく、その美術館が所有している作品をいつでも見ることができる部屋。あまり宣伝されていないので人が少なく、ゆったりと自分のペースで作品と向き合える。本書はピカソ、フェルメール、マティスなど6枚の絵画が物語を豊かに彩るアート短篇集。主人公は、いずれも女性で彼女たちの寂しくて少し無理をしている生活に、息が詰まる思いで読み進めた。

仕事で海外を飛び回る主人公が父亡き後、弟と共に父が最期を過ごした施設を訪れる。父が病院で酷い扱いを受けていたことを知り自身を顧みる「デルフトの眺望」。

大手画廊に勤務し海外を転々としている主人公は、四六時中かかってくる独居の母からの電話を少し、うっとうしく思う。急いで仕事に出かけようとしていたある日、頼みごとをしてくる母に対して声を荒げてしまう「マドンナ」。

幼い頃に生き別れになった兄と妹が、同じ絵を見て「多くのものを得た」と感じる妹と「多くのものを捨てた」と感じる兄との境遇の違いを描く、最終章の「道」。

著者は、「自分の友達にあいさつに行くみたいに」美術館を訪ねると語る。日本でも、美術館をもっと身近に感じられて、あらゆる世代の人たちが訪れる場所になれば…と願う。本書はその一助になるだろう。女優・上白石萌音が綴る解説も秀逸。