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『板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh』 原田マハ

幻冬舎(2024)
ゴッホに憧れ、絵画に恋焦がれ、絵筆を握った男――棟方志功。しかし、油絵のなんたるかもわからず、描いては悩み、描いては捨てる日々。そんな「悪銭苦闘」の果てに彼が見出したのは、紙と墨と彫刻刀で咲かせる「板画」という道だった。
『極上に咲く』は、そんな志功の生涯を、そばで静かに支え続けた妻・チヤの視点から描いた物語です。
志功が“咲く”ために、チヤは40年以上ものあいだ墨を磨き続けます。決して名を売ることもなく、ただ彼の創作にすべてを捧げたその姿には、「献身」という言葉では到底おさまらない気高さが宿っていました。チヤの語り口は抑制が効いていて派手さはありませんが、だからこそ、胸に迫ってくるものがあります。夫婦というよりも同志のように、あるいは信仰のように芸術に向き合ったふたりの関係性。
前述した通り、これはひとりの天才を巡る伝記ではなく、その才に寄り添い続けたもうひとりの「創造者」が紡いだ静かな記録です。読み終えて本文に出てくる棟方志功の作品を目にすると、ふとチヤの姿が重なります。あの黒々とした墨の向こうに、彼女が確かにいたのだと……。