『キップをなくして』池澤夏樹

角川書店 (2005)

「切符をなくしてはいけないよ」電車に乗る際、耳が痛くなるほど親に言われた人は少なくないだろう。現在ではICカードやスマートフォンそのもので改札を通過できるようになったが、数年前までは皆、券売機で切符を買って改札を通っていた。

舞台は切符を駅員がはさみで切っていた時代の東京駅。

切符を失くした子供たちは駅から出られなくなり、詰所に集められて「駅の子」と呼ばれる存在。彼らの仕事は、電車通学の子供たちの安全を守ること。

切符を失くした主人公・イタルも駅の子になり、同じ境遇の子供達と生きていく。駅弁食べ放題、仮眠室あり、電車にも乗り放題。ただし家には帰れない。後半は、うす暗いイメージの駅舎から飛び出し、皆で北海道まで遠征し、仲間の一人のミンちゃん(幽霊)のために奮闘する。駅の子とは何なのかをはじめ、様々な謎も散りばめられている。生きるとは何か、死ぬと、どうなるのか――。不思議な世界に足を踏み入れた子供たちのひと夏を描く、鉄道冒険ファンタジーの傑作。