『走れ! タカハシ』村上龍

 講談社 (1989)

1970年代後半から80年代にかけて広島カープの遊撃手として活躍をした高橋慶彦。当時の赤ヘル軍団(広島)は、みんなザ・男という感じで、カッコ良かったなぁ。その中でもダントツ人気だった高橋慶彦をキーワードに、80年代、時代の寵児だった村上龍氏が綴るベストセラー短編集だ。

いや~下品(いい意味で)。全体の8割がシモネタ。男子(成人が主人公でも)は寝ても覚めてもそのことしか考えていないのかいっ! と、笑いながら突っ込みを入れたくなる話が続き、文句なしに楽しい。ノスタルジックな気分になったり、あるフレーズが心の琴線に触れるという湿っぽさのない空気感もいい。

どの話も主人公男子は女たちや彼女たちと関わりのある男に「高橋慶彦に盗塁させて!」だの「高橋慶彦と話したい!」だの「高橋慶彦を球場で応援したい!」だのと言われる。時に上目遣いに、時に恐喝めいて、時に涙ながらに。その無理難題を叶えるべく、男子たちはただただ「したい」一心で奮闘を続ける。

アホか! と思っていたはずなのに、話を重ねるうちに「なんだかアホほどかわいいよね」となってくるから不思議だ。それこそが村上龍氏の狙い?  というか、氏の人間考察のなせる技なのかもしれない。

ところで、この小説。タイトルにしてキーパーソンとなっている高橋慶彦さんご自身は読んだのかな。読んだとしたら、どんな感想だったのかな、と検索してみたが、答えになる記事はなかった。それもまた良し。

by sachikoi