『どんぐり姉妹』よしもとばなな

‎ 新潮社 (2010)

「恋の初めが好きだから」と、恋愛を繰り返すライターの姉・どん子と内省的な傾向を否めない妹・ぐり子。ふたりあわせて〝どん・ぐり〟。

どん子が12歳、ぐり子が10歳のときに散歩にでかけた両親が交通事故で、他界してしまう。二人は、二人きりで生きる気持ち満々ながらも、世間が許してくれず、親戚の家をいくつか巡り、最後には気難しい父方の祖父が持つ5LDKの古いマンションで生活をするようになる。それが、どん子18歳、ぐり子16歳のときのこと。

気難しいとされていた祖父との暮らしは、その実、静かで、穏やかで、愛に溢れていた。祖父の命の雫が最期に零れ落ちるのを看取って、どん子は30歳に、ぐり子は28歳になった。

そして、いま、他愛のない小さな悩み事を共に考える「どんぐり姉妹」というサイトを運営している。そこに寄せられるつぶやきに答えながら、二人の静かな日常は進んでいく。

その中で見つけた〝運命のようなもの〟や〝見落としてしまうような幸せ〟に、読者である私も共感し、「あぁ、これがよしもとばななの世界だ」と懷しい温かさに包まれる。

たとえば、懷かしい人を「検索」する行為について、ぐり子は言う。「調べたら、みんな蒸発しちゃう。この豊かな水が」。

たとえば、まだ両親が生きていて、質素ながらも愛に満ちていた近所の公園でのファミリーピクニックを思い出して「どんな人も、ちょっとくらいでいいから、子どものときの自分に会いにいけるといいのにな」とぐり子は思う。

紹介したいフレーズはほかにもたくさんあるけれど、本書から教えてもらう忘れていた感情は、私をとても幸せにしてくれた。

『文庫版あとがき』によると、本書は、ばななさんのお父様・吉本隆明さんが最期に読んだ娘の小説だったと言う。読み終えた氏は「もう君は自分の世界を作っている。もう大丈夫だ。あとは自分で書いていってください」と感想をくれたらしい。とてもいい話だと思った。

by sachikoi