『南洋のソングライン ー幻の屋久島古謡を追って』大石 始

Kilty BOOKS(2022)

正直、民謡に興味を持ったこともなく、屋久島にも行ったことがない…
そんな私が驚くほどの感動を得られた一冊です。

本書は、一度途絶えてしまった屋久島の古謡“まつばんだ”のルーツを探るルポルタージュ。
“まつばんだ”をリアルに歌えたのは明治生まれの世代までだったようで、取材にはとても苦労されたように思います。細い糸を手繰り寄せながら、屋久島の歴史、文化、風習、そして島に住む人々のお人柄を交えながら少しずつ“まつばんだ”に近付いていきます。

ただ、最後のほうで著者が「島のある領域に踏み込み、地域の財産を好き勝手に切り取って外部へと持ち帰る、その暴力性みたいなもの。僕はこの本の取材を進めるなかで、自分の行動が無意識のうちにまとってしまう暴力性に気付かされることになった」と…..そんな葛藤を抱えながらも書き上げてくださった本書は間違いなく多くの読者の新しい扉を開いてくれたのではないでしょうか。もちろん、私もその読者のひとりです。

またカバーの装画も素敵で、内面レイアウトや紙質、製本も本当に美しいです。この一冊への熱意が丁寧に作り込まれていることからも伝わってきます。