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『海を見ていたジョニー』 五木寛之
講談社(2021)
五木寛之の初期の名作短編小説『海を見ていたジョニー』の新装版。
表題作である「海を見ていたジョニー」は、ジャズ・ピアニストである黒人兵ジョニーが、ベトナム戦争を経験したことで人が変わり、ピアノを弾けなくなってしまう物語です。
彼の哲学では、ジャズは「人間の音楽」であり、ジャズを愛することは人間を愛すること。しかし、罪のない人を殺してしまった自分には、もはやジャズを演奏する資格がないと感じてしまいます。そんな彼はジャズ仲間に「弾いたほうが早い」と言って自らの演奏を聴かせますが、それは見事なブルースでした。
ジョニーは変わってしまった自分を否定されることを望んでいたのだと思います。否定されることで、ジャズが持つ美学を証明したかったはず。ジャズが人間の真の姿を映し出す鏡だと信じていた彼は、その苦しみの果てに自ら命を絶ってしまうという、非常にウェットな作品。他の4編も非常によかったのですが、やはり表題作が最も心に残りました。