『光の犬』松家仁之 

新潮社(2017)

松家さんの本を読むのは『火山のふもとで』に続いて二冊目。
文章だけで、ここまでありありと情景を立ち上げられるのかと、今回も何度も立ち止まりました。

舞台は、北海道東部の架空の町・枝留(えだる)。
明治から平成へと続く三代の添島家の人びとと、
四代にわたって飼われた北海道犬の軌跡を辿る物語です。
三代記と聞いて想像するような劇的な出来事はなく、
ただ日々の営みが、静かに、丁寧に積み重ねられていきます。
それが不思議なほど心を打ち、
北海道の広い大地の空気までもがこちらに運ばれてくるようでした。

作中で心に残ったのが、「東方の三賢人」が幼子イエスに捧げた
黄金・乳香・没薬 のくだり。
詳しく知らず付箋を貼ったまま読み進めたのですが、
物語の終盤、その意味が言葉ではなく感覚として返ってきたように思います。

また、関東大震災を機に移り住んだ眞蔵と助産婦よね。
よねの師匠が語る出産についての言葉には、めくる手が止まりました。
西洋医学とは異なるところにある、
「本来の出産」というものを考えさせられます。

終盤、両親や叔母たちの介護を通して描かれる〈生〉は、
美しいことばかりではない現実から目を逸らさないための、静かな教訓のようでした。
読後、胸の奥に灯りが残る一冊です。