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『おあげさん』平松洋子
PARCO出版 (2022)
本書は「油揚げ」に異常な愛を注ぐ著者が、油揚げ一色でまとめた一冊である。豆腐を薄く切って油で揚げた「油揚げ」。いつも冷蔵庫の片隅で「出しゃばらないのに頼もしい」――そんな存在は理想の男性像のようでもある。煮てよし、焼いてよし、包んでよし、そのうえ安いうえに、ごはんのおかずやおつまみにもなる万能食品。弘前「土紋(どもん)」のいがめんち、「松むら」、豊川稲荷東京別院、伊東駅「祇園」のいなり寿司、難波「天政」のきざみうどん、香川「谷川米穀店」のうどん、乾物「松山あげ」などを紹介。また絵画や映画に出てきた油揚げさえも著者は見逃さない(平松さん、私も気になっていました『なぜ君は総理大臣になれないのか』で小川淳也さん宅の食卓に写し出された油揚げとその語り!)。 時には主役に、時には脇役になりながら、食卓を賑わせてくれる、「二枚あれば三合飲める」とは著者の名言だが、本書があれば、何度となく油揚げを噛みしめられるだろう。いろいろな油揚げがあり、いろいろな調理の方法がある。おいなりさんやきつねうどんの汁にどっぷり浸かった油揚げを口にしたときの「じゅわっ」とした滋味深さのような読後感を味わえる一書。なんせ、どのページを開いても“おあげさん”。空腹時に読むと苦痛を伴う。