『別れを告げない』 ハン・ガン

白水社(2024)

ノーベル文学賞受賞後、一躍時の人となったハン・ガンさん。

初めて手に取ったのは、cuonさんから出版されている『菜食主義者』でした。

圧倒的な文章力で、読み手まで息苦しさを覚えるような

これまでにない読書体験に驚嘆した記憶があります。

そして今回、積読していた『別れを告げない』に

ようやく向き合うことができました。

これから読む方におすすめしたいのは、

第一部は問題なく読めると思いますが、

第二部あたりからは、

済州島の四・三事件について事前に調べておくと

物語により没入できると思います。

私自身、調べながら読み進めたのですが、

巻末の翻訳家・斎藤真理子さんによる解説を

先に読んでおけばよかったと後悔しました。

四・三事件について詳しく解説されています。

ハン・ガンさんが年月をかけて完成させたこの一冊。

「別れを告げない」とは、「哀悼を終わらせない」

愛も哀悼も最後まで抱きしめていく決意なのだと感じました。

国家公権力によって多数の無実の民間人が虐殺され、

その事実が長らく隠蔽されていたという歴史。

済州島にこのような背景があったことを知り、

軽い気持ちで訪れることはできないと思います。

ハン・ガンさんは、本書を「究極の愛の小説」と語っています。

愛するとは、自分の生だけでなく、愛する人の生を同時に生きること――。

その深い意味に触れた読後感は、言葉にできないほどの余韻を残しました。