『カエルの楽園2020』 百田尚樹

新潮社(2020)

本書は、アマガエルが安全な土地を求めて命からがら旅をした末にたどり着いた「楽園」を舞台に繰り広げられる物語だ。

母国では決して得ることができなかった自由と安全がそこにはあった。その楽園で暮らすツチガエルたちによると、戒律と歌があるから平和な日常が守られているのだという。それらを守り続ければ、凶暴なウシガエルも崖を登って襲ってくることはなく、戦いも起こらないと。

読み進めていくうちに、楽園に住むツチガエルは誰を表しているのか、ウシガエル、鷲などが何に例えられているかが見えてくる。一見するとカエルの世界を描いたおとぎ話のようではあるが、日本の安全保障が抱えている問題を誰にでもわかるように表現されている。登場人物のネーミングにもヒントが隠されているのでぜひ注目しながら読んでほしい。

いま世界で起きていることと恐ろしいほど重なるこの物語。安全と水はただではないことを日本人に厳しく突き付けてくる。

小鳥遊多実子