『あたしとあなた』谷川俊太郎

ナナロク社 (2015)

思わず頬ずりしたくなるような、あまりに嬉しくて寝る時も枕の横に置いて、肌身離さず持っていた「本」。

布張りの表紙は、青、白、金の三色の箔が豪華に全面押しされており、書籍の常識を超えるような工芸品のようである。また本文用紙も「この本のためだけの特別な紙」を提案された装丁家の名久井直子氏が高級越前和紙で知られる石川製紙株式会社に協力を得てしっとりとしたやわらなか質感を持つ鮮やかなブルー紙を誕生させている。

第一線で詩を書き続けてきた詩人・谷川俊太郎氏は「手に持って快く、余計なものに煩わされずに頁を開く、その繰り返しに耐える、むしろ何度でもそうしたくなる本、それが詩集の理想形ではないだろうか。中身の詩を飾るのではなく、詩を素手で差し出す器としての本、この詩集をそんな風に感じてもらえるだろうか。」と、はさみ込みのしおりから、そっとメッセージを贈っている。

近年の電子書籍の発展に伴い、タブレット端末で読書をする人もいるだろう。やがて「すべてが画素(ピクセル)に還元される日」が来てしまうのだろうか。本書は、これまでずっと「本」を愛してきた人の一抹の不安を吹き消すように、ページをめくる指先が人間の本源的な感覚を取り戻してくれる一冊。