『海苔と卵と朝めし』向田邦子

河出書房新社 (2018)

2021年に没後40年を迎えた著者。タイトルにある3つの言葉だけで、普段の何気ない朝ごはんの景色と味までが浮かび、ひきつけられる。

卵にまつわる話がいくつかあるが、特に印象に残ったのが「昔の卵のほうが、殻が分厚く、黄身も盛り上がっていて堂々としていた」というもの。読み終えてだいぶ経ったある朝、平飼いを謳った「いい卵」を割ったときに、殻の硬さに驚くとともに瞬間的に本書の内容が思い出され、本当にそうなんだと激しく納得した。

整理棚に「う」というラベルを貼って、整理整頓が苦手でも「うまかった食べ物」の切り抜きやしおりだけはきっちりとしまい込んでいるという話や、フランスで食べた絶品ソースを帰国後に10時間かけて苦労の末に再現したもののお手伝いさんに間違って捨てられてしまった話など、飾り気のない普段の向田邦子の生活の一端を垣間見ることができる。

小鳥遊多実子