『舞台』西加奈子

 講談社 (2017)

新刊がでるとすぐに購入、追いかけてしまう作家がいる。私にとっては、西加奈子さんがそのひとりだ。

単行本出版は2014年。主人公の葉太(ようた)は29歳、アラサーにして無職だ。ベストセラー作家の父が逝去し、遺産の一部を使って、初めての海外旅行、ニューヨークにやってくる。これまでの葉太は、ダントツ1位と言わないまでも、常に一目置かれる存在ではあった。何しろ、都会的なハンサムで、所作も発言も洗練されているのだ。当然、モテてきた。

しかし、それは葉太の病的なまでの計算によるものだった。理想とする自分の姿を追求するために、とにかく恥をかかないために、行動する。恐ろしいまでの自意識! 悲しいまでの自分コーディネート! 太宰治の『人間失格』も彷彿とさせる。

それで人生がうまくいき、本人が満足しているのだから、「そんなふうに生きていたら、疲れるでしょう?」などと声をかける必要もないが、ニューヨークで彼は崩壊してしまう。旅の初日のセントラルパークで盗難に遭い、有り金のほとんどを失ってしまうのだ。そんな状況下にありながらもかっこつけて、平静を装う葉太は、残りのニューヨークをどう過ごすのか、彼が辿り着いた生きる意味とは?

物語に引き込まれて一気に読み終えたあとには、キューンと胸が締め付けられ、一気に力が抜けて、希望が見える。

そして、葉太ほど極端ではないにせよ、自分の中にもある自意識や自分コーディネートに気づいて、少し恥ずかしい。自分が思うほど周りは私に注目していないのに、なんだかカッコつけてしまうこと、あるよね。そのあと、失笑みたいな(笑)。

2017年に発売された文庫の巻末には、西さんとタレントの早川真理恵さんの対談も。お得感があります。

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