『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘

中央公論新社 (2009)

サンドイッチ屋「トロワ」でスープ作りに勤しむ主人公は、古い映画に数秒出てくる女優さんに恋をする。店主の安藤さん、息子のリツ君、月舟シネマで出会う初老の女性や大家のマダムとの触れ合いが描かれる本書は『つむじ風食堂の夜』に続く月舟町シリーズ三部作の二作目ですが、この本から読み始めてもまったく問題ないです。すんなりと著者のあたたかく、ほろほろと余韻のある世界に入っていけます。急展開に驚くようなシーンはないですが、スープのようにジンワリと心に染み込んでいき、本を閉じたときにはなんとも言えない安堵感に包まれます。