『とわの庭』小川糸

‎ 新潮社 (2020)

本書は、母と娘の物語。愛が大事だと簡単にいうけれど、愛ほど難しく、恐ろしいものもない。深い愛情は、時に拘束にもなりかねない――。

主人公のとわは、目の見えない女の子。自宅から一歩も出ないで(出されない)で大好きなお母さんに守られて生活していた。が、ある日を境に一変する。お母さんがいなくなるのだ。その生活は目を覆いたくなるような描写で綴られている。とわは、出生届けが出されないままに成長し、社会との接点は一切なく、保護された時は25歳になっていた。

これまで読んだ小川さんの『ライオンのおやつ』『食堂かたつむり』『ツバキ文具店』とはなんだか違う。幸福感に満たされる本ではないんだ…と途中に思うのだが、やっぱり小川さんらしさに溢れた後半に安心しながら読み進めていく。目の見えないとわのために、お母さんは庭に香りのする木を植えていた。猫の額ほどの小さな庭だったに違いない。けれど、その庭がとわにやすらぎを与えてくれていたのだ。

生きてさえいれば、誰かが手を差し伸べてくれる、光がやさしく包み込んでくれることを存分に感じ取れる一冊です。