『傷を愛せるか』宮地尚子

筑摩書房(2022)

精神科の医師であり、トラウマ研究の第一人者である著者によるエッセイ。まるで目の前で語りかけてくれているかのような、そんな錯覚を抱いてしまうほど、乱れていた心が少しずつ整っていく。

なかでも印象的だったのは、著者の女友達がパートナーを亡くしたときのエピソードだ。どんな言葉もハグも彼女を癒やすことはできないだろうと。参列者が彼の骨を拾い骨壷に納めていくのを彼女は見つめている。そして著者は、そんな彼女を見つめている。その時「なにもできなくても、見ているだけでいい。なにもできなくても、そばにいるだけでいい」と腑に落ちたそうだ。彼女がしっかりと喪主の役割を果たす姿を目撃し、いまこの時が存在したことの証人に自分がなると。――弱いまま強くある姿の証人。何度も再読したくなる一冊。