『中庭のオレンジ』吉田篤弘

中央公論新社(2022)

タイトルからして想像してしまう。外でもない中でもない(中でも外だから)という空間にオレンジの木があったらどんなに素敵だろうと。――戦火を避けるために貴重な本が埋められた図書館の中庭。そこにオレンジの種を撒き、大切な本は守られ、数多くの物語が宿っていく。そして夜風が物語を運び、人々の元に届けているかのような21のショートストーリー。

一日一篇だけ読もうと決めていても、気がつくと次の物語にはいってしまっている。物語とは「はじまり」があれば「おわり」があるように思いますが、吉田さんの紡ぐ物語は途中からはじまり、途中でおわるかのようで、好きな人にはたまらない一冊になると思います。そして最後の物語では思わず「あ~」と声が漏れてしまいそうになります。