『ルート29』黒住光

リトルモア(2024)

映画『ルート29』が気になっていたのに、気付いたら近くの映画館では上映が終わっていました…。なので、リトルモアから刊行された本を読んでみました(まだ上映中の映画館もあると思います!)。

鳥取で清掃員として働くのり子は、他人と必要以上にコミュニケーションを取ることができません。ある日、仕事先の精神病棟で出会った患者から「娘を連れてきてほしい」と頼まれ、幼い少女が写る一枚の写真を手渡されます。
のり子は清掃員たちが使う会社のワンボックスカーを黙って借り、鳥取から姫路をつなぐ国道29号線に飛び乗り、写真を頼りに少女(ハル)を探しに行きます。迷いがないんです。「会えるかな…」とか考えず、ただまっすぐに。

そしてハルを見つけたのり子は、ふたりで国道29号線を辿りながらハルの母親がいる精神病院を目指します。旅の途中でさまざまな不思議に出会い、お互いの気持ちが自然とつながっていく姿が描かれていて…。小さな声を持つ者同士だからこそ紡がれるつながりの美しさに、思わず涙がこぼれました。

個人的に震えた本文の一部を引用します。

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人間がひとりひとり、他人は関係ない自分だけの悩みごとを毎日考えて生きているというのは、なにかとてつもなくぞっとすることに思えます。

だいじょうぶだと言われると、ふっと力が抜けて、いままでなにを心配していたのかもよくわからなくなってきます。

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また、西村ツチカさんによる表紙の絵もとても素敵です。