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『上林暁の本 海と旅と文と』 山本善行

夏葉社(2025)
本書を編集された山本善行さんは、京都〈善行堂〉の店主であり、上林暁の作品を手がけるのはこれで6冊目になるそうです。そのあとがきからも、上林への深い敬愛がひしひしと伝わってきます。
収録されているのは、「四国路」「秀才」「愛の詩集綺譚」「マヅルカ」の4編。
なかでも、最近レコードから流れる音楽に全身が震えるほど感動した体験があったこともあり、「マヅルカ」が今の自分にはぴたりとはまりました。思わず、上林が聴いていたかもしれない青い盤――コロンビア録音によるブロニスワフ・ヒューバマンの「マヅルカ」を探してしまったほど(YouTubeにありました)。こんな音楽を聴きながら、文学が生まれたのか……と、妄想がふくらみます。
また、ご家族や同時代の作家たちが綴る上林の姿からは、私小説ではうかがい知れなかった一面がそっと浮かび上がります。なかでも、東大英文科出身でありながら「一時しのぎの翻訳には手を出さなかった」という逸話(高杉一郎談)には、安易な道を選ばず、小説だけを生きる術と決めた人の、揺るがぬ覚悟と矜持がにじんでいました。
巻末の〈上林暁全創作集案内〉もたいへん魅力的で、未読の『死者の声』をはじめ、次々と手に取りたくなります。上林作品に初めて触れる方にも、長く読み継いできた方にも、きっと大切な一冊になるだろなぁと。